カンボジア・ベトナム研修⑥
カンボジア・ベトナム研修第5日目。
旅は、時に人を日常から非日常に投げ込みます。それも時間と空間を超えて。
私たちは、ベトナム戦争の最後の日、44年前のサイゴンに急に投げ込まれました。
ここはホーチミン市の統一会堂、元南ベトナム大統領府です。1975年4月30日、北ベトナム軍の戦車がここに突っ込み、長かったベトナム戦争が終わりました。
そして戦争証跡博物館、ベトナム戦争の記憶を永久にとどめる場所です。
ここには、人間の想像を遙かに越える現実が展示されていました。大妻中野の生徒たちは、写真を真剣に見つめます。ため息をつくことさえできません。そんな写真の中で見覚えのある写真がありました。「安全への逃避」と名付けられた写真、ピュリッツアー賞を受賞した沢田教一の写真です。
半世紀前に起こったことが生徒たちの胸を重く締めつけます。しかしこれがベトナムの人たちが決して忘れない戦争の現実です。
午後は、結合双生児のベトちゃん・ドクちゃんのいたTUDU病院平和村を訪問しました。35人の枯葉剤被害者の子どもたちの暮らす施設です。
枯葉剤被害者の子どもたちと、たとえ言葉は通じなくとも、心のこもった交流ができました。
そして夜は、グエン・ドクさんを囲んで食事をしながらお話しを聴きました。
生徒たちは、ドクさんにいろいろな質問をし、ドクさんはその一つ一つの質問に丁寧に答えてくれました。
生徒:この世界が平和になるためには何が必要ですか?
ドクさん:世界では、今でも戦争が続いている。戦争を起こさないでほしい。そのためには、まずテーブルについて話しあってほしい。
生徒:平和な状態とはどんな状態ですか?
ドクさん:一人一人が素晴らしい人間になること。周りの人を助けること。それも積極的に。
生徒:戦争についてどう思いますか?
ドクさん:私は戦争が大嫌いです。戦争では、赤ちゃんや子どもたちがたくさん死んでいった。許されないことです。子どもたちのために戦争のない世界を作りましょう。
生徒:枯葉剤被害者に対する支援はありますか?
ドクさん:支援は少ないです。枯葉剤被害者は400万人もいるのに、政府からの支援はわずかです。
生徒:ドクさんにとって、幸せって何ですか?
ドクさん:仕事が終わって妻と子供たちのいる家庭に帰り、一緒に過ごす時間です。
話はつきません。名残を惜しみながら、ドクさんは独りオートバイにまたがり帰宅の途につきました。
大妻中野の生徒たちには、「戦争と平和」についてたくさん考える長い1日でした。
圧倒的な現実の前に、私たちは無力感を感じます。でも、「世界から戦争をなくすために、私には何ができるだろう」と考え続けることが、いつか世界に平和をもたらすことになるでしょう。大妻中野の生徒たちはそのことを知っています。